三名槍が現代で飲み会をするようです
注意書き
現パロです。
三名槍それぞれにお相手がいる設定です。
おてさに以外は出てきません。
ずいぶん酔いがまわった様子の日本号が、今夜何杯目だろうかという熱燗をぐいっとあおると、据わった目で御手杵に問う。
「愛してるって言ってるか?」
***
金曜の夜、週末特有の華やいだ雰囲気の飲み屋街。御手杵は急いでいた。道ゆく人は通勤ラッシュ時のあたかも統率されたかのような足取りではなく、誰もが浮かれているかのような、ゆったりとした自由な歩み。こちらが急いでいるときには、こういった中を歩くのはなかなかの至難の業だ。
しかし御手杵はさして気にした様子もなく、人混みを縫うようにすたすたと早足で歩く。周りの人を最短距離ですいすいと追い抜いていく。仕事帰り、ネクタイを少しゆるめたスーツ姿。手提げタイプのビジネスバッグは周りの人に当たらないように今は小脇にかかえられている。
約束の時間はとうに過ぎている。残業が思ったより長引いてしまった。
遅れる旨の連絡は入れてあるが、他の2人は前世からの旧知の仲なので御手杵のことは気にせず先に始めていることだろう。
今夜は三名槍が集う飲み会。だいたいいつも酒好きな日本号からの誘いで集まることが多い。今夜も例に漏れず日本号から召集の連絡があった。
槍の付喪神である刀剣男士として武器を振るっていた頃の記憶がない訳ではないが、転生して生まれ変わった今となっては日々の仕事に忙殺され、今の環境にすっかり慣れてしまっていた。
「悪い。ずいぶん遅れた」
御手杵がたどり着いたのは週末のサラリーマンが集まる赤ちょうちんのテーブル席。リーズナブルなのにうまいと界隈では評判の店だ。とても繁盛しているようで店内は満席で賑わっている。
「構わん。とりあえず生でいいか?」
蜻蛉切が御手杵に椅子を勧めながら訊く。
「ああ……あ、生中1つお願いします」
ネクタイを外しながら答えていると、近くを店員が通りかかったので、すかさず注文をする。
「おう。遅かったな」
そう言って手をひらひらと振る日本号の前には、半分以上中身が減った大ジョッキと焼き鳥が刺さっていたと思われる串と皿。このビールもおそらく1杯目ということではないのだろう。ずいぶんと出来上がっている様子だ。
「悪かったって。年度末で社内が慌ただしいんだ」
御手杵がスーツのジャケットを脱ぎながら答える。
「お前だけが忙しいと思うなよ?」
日本号が枝豆を口に運びながら軽口をたたく。笑い合いながら御手杵が席に着いた。
ほどなくして御手杵のビールが席に運ばれ、改めて3人は日本号の音頭で乾杯をする。
「じゃあ改めて、おつかれさん」
「「「乾杯」」」
***
「ところで最近どうよ?」
いつの間にか日本号の手には徳利とお猪口が握られていて、徳利からお猪口に熱燗が注がれるたびにどんどん飲み干されていく。
「どうもなにもなぁ。さっきも言ったとおり、年度末で仕事が忙しいな」
ぐび、と御手杵がビールを喉に流し込む。
「ばーか。仕事の話じゃねえよ。こっちよこっち」
そう言って日本号は小指を立てる。
いまどきオッサンでもそんなことしねーよ、と内心ツッコミながら御手杵はどう答えようか考える。
「どうって言われてもなぁ……。蜻蛉切はどうなんだ?」
そう言って御手杵は運ばれてきたばかりの熱々の唐揚げにかぶりつく。
「あー、蜻蛉切ねぇ。さっき聞いたら婚約者のお嬢さんとの結婚式の準備が楽しくて仕方ないんだとさ」
ケッと吐き捨てる日本号の横で蜻蛉切が咳払いをして頬を染めている。
前世でもそれぞれ恋人がいた3人。今世でも縁あって、蜻蛉切は婚約中、日本号は妻帯者、そして御手杵はーー。
「で、お前はどうなんだよ?」
結局は御手杵に戻ってきてしまった。今夜はやけに日本号がからんでくる。
「そうだなぁ……特に変わり映えしないけど、毎日楽しくやってるよ」
日本号の追究は続く。
「同棲して何年になる?」
ひいふうみいと指折り数える御手杵。
「今年で4年目かな」
「おいおい、ちゃんと結婚とか考えてるのか?」
驚いた日本号が目を丸くする。
「考えてるさ。けどタイミングがなぁ。難しいよな」
御手杵はビールジョッキを両手でもてあそぶ。
「そんな悠長なこと言ってっと逃げられても知らねえぞ」
ずいぶん酔いがまわった様子の日本号が、今夜何杯目だろうかという熱燗をぐいっとあおったあと、据わった目で御手杵に問う。
「愛してるって言ってるか?」
ビールに口をつけていた御手杵がむせて咳込む。
「ちょ、なんだよ、いきなり」
あわてて手の甲で口元をぬぐう。
「ちゃんと言えるときに言っとかねえと後悔するぜ?」
なぜか今日の日本号には妙に説得力がある。
「そもそもあっちから愛してるって言われたことあるのか?」
うーん。と考え込む御手杵。
「本人に聞いてみようぜ」
「聞くって、今か!?」
日本号の突然の提案に御手杵が飛び上がる。
「もちろん今だ。ほれ、電話しろ電話。スピーカーモードな。ちなみにこっちから愛してるって無理矢理言わせるのはナシな」
嬉々として話す日本号。
「やめないか、日本号」
蜻蛉切が止めに入ってくれるが、こうなった日本号をもう止めることはできない。しぶしぶ御手杵は携帯端末を操作する。そして欠けたリンゴのマークが背面についたそれをテーブルの真ん中に置いた。
呼び出し音がしばらく続く。御手杵としてはこのまま出ないでほしいとも思う。
『はいもしもし』
御手杵の心とは裏腹に彼女が電話に出た。
「あのさ……、いきなりだけど俺のことどう思う?」
恐る恐る御手杵が訊ねる。
『どうしたの?酔ってる?』
クスッと彼女が笑ったのがわかった。
「ああ、……酔ってるな。酔っぱらいの戯言だと思って聞かせてほしい。俺のことどう思う?」
同じことを2回訊くのはなかなか勇気がいる。そして彼女が答えてくれた。
『うん……、尊敬してる、かな』
「ああ〜、そうきたか!」
それまで声を押し殺していた日本号が手のひらで目元を押さえ、たまらずこぼす。
それを聞いて何かを察したらしい彼女が答える。
『えっと、……好きです…………?』
すかさず「もう一声!」と、日本号。
完全に察したらしい彼女が恥ずかしそうに答える。
『えと、あの、…………愛して……ます……』
うおおおおおおお!!!!と日本号が歓喜の声をあげる。
「急にごめんな、俺も愛してるよ。また帰る時に連絡するから」
じゃあと言って電話を切る御手杵。
リア充爆発しろと泣き崩れる日本号。
良かったなと御手杵のお猪口に熱燗を注ぐ蜻蛉切。
「今日の日本号、一体どうしたんだ?」
御手杵は枝豆をつまみながら蜻蛉切に訊ねる。
「気にするな。なにやら朝から奥方とケンカをしたらしい」
もっとどうだ、と御手杵に酒を勧める蜻蛉切。
そう話している間も日本号は机に突っ伏して泣いている。
「完全に八つ当たりだな……」
そうこぼしつつも、日本号に言われた通りちゃんとしなきゃな、と御手杵は思った。
こうして今日も三名槍の夜がふけてゆくのであった。
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございます。
お恥ずかしながら、私の実体験が元になっています。